先日、「格闘級! 航空母艦の戦い」を『それは“衝立式”ながら「扇状索敵」を可能にし戦術マップで「空母が雷爆撃から逃れるために回頭」できる唯一の空母戦』と紹介したところ、「Fast Carriersも 空母が回頭できましたね!」との指摘をいただきました。
さすがベテランウォーゲーマー。その通りでして、もっと言ってしまうと、私が返信したように「ツクダの『航空母艦』もできるんですよね!」であったりします。
また、1985年にRising Sun Simulationsが出版した「Carrier Battles」には、FLAT TOPをベースにしたルールに加えて、戦術マップを用いて艦艇ユニット、航空機ユニットが戦術マップの上を動き回って空対艦戦闘を再現するルールを組み合わせています。
雑誌「タクティクス」で紹介されて有名になった「Carrier Strike」も戦術マップを用意して航空機同様艦船もマップの上を移動して回避運動をする“そう”です(Carrier Strikeに関してはSSIの同名PCゲームは“相当”プレイしましたが、ボードウォーゲームは所有したこともプレイしたこともなく、断片的な情報をタクティクスやシミュレイター、ゲームジャーナルで読んだ程度の知識ですが)。
航空機による艦船攻撃という戦術場面を再現したウォーゲームという意味では、タクティクス 11号(1983年9月発行)で紹介していた「IJN II」も艦船ユニットが雷爆撃を回避できます。識者によるとSimulations Canadaの「IJN」も“航空機による艦船攻撃”を再現するシナリオと艦船ユニット、航空機ユニットを用意しているとのこと。
以上のように、戦術マップを用意して「空母が雷爆撃から逃れるために回頭」できるウォーゲームは古来から存在していました(その意味でいうと、格闘級!~は「戦術マップで空母が雷爆撃から逃れるために回頭できる“現行製品で”唯一の空母戦」)。
実際、格闘級!~のデザイン過程では、Fast Carriresと航空母艦、Carrier Battles、そして、IJN IIを事前に調査しています(というか、たまたま所有していた)。せっかくですので、Fast Carriers(正式名は“The Fast Carriers:Air-Sea Operations, 1941-77”)と航空母艦、Carrire Battles、そして、格闘級!~において、それぞれどのように「空母が雷爆撃から逃れるために回頭」するのかを簡単に紹介しましょう。
なお、“手順の区切り”の名称は、それぞれのタイトルにおけるルールブックで規定している単語で表記しています
●Fast Carriers
海空戦闘は「Tactical Display」で実施し、「Tactical Turn」と呼ぶ区切りで戦闘処理手順を進めていく。Tactical Turnは「Defender Air Movement Phase」「Carrier Facing & Movement Phase」「CAP Attack Phase」「Flak Attack Phase」「Attacker Air Movement Phase」「Attacker Air to Air Attack Phase」「Air To Surface Attack Phase」で構成する。
○Tactical Displayのスケール
・1へクス=1000ヤード
・1Tactical Turn=40秒
〇艦船の移動
・Tactical Displayに配置したへクスから艦船ユニットは“原則”動かない
・空母ユニットは1Tctical Turnにつき60度回頭できる
・回頭した60度弧の4へクス以内にある空母以外の艦艇ユニットは空母から遠ざかる方向へ(相対的に)1へクス移動
・空母ユニットは毎Tactical Turnに回頭できる。
○航空機の攻撃における回頭運動の影響
・艦艇ユニットには「艦首側」方位と「艦尾側」方位がある
艦首側方位|艦尾側方位
艦首側方位|←艦艇向き|艦尾側方位
艦首側方位|艦尾側方位
・急降下爆撃は目標の艦艇ユニットに対して“艦尾方向”となる隣接3へクスのいずれの方位から目標艦艇ユニットと同じへクスに移動しなければならない
・急降下爆撃が実施できる後方隣接3へクスは全て艦尾扱いとなるので急降下爆撃における対艦攻撃値は同じ
・雷撃は目標の艦艇ユニットに対して3へクスの直進をして隣接するへクスに到達する必要がある
・艦首方位に隣接する3つのへクスから実施した雷撃は、ユニット記載の対艦攻撃値を使えるが、艦尾方位に隣接する3つのへクスから実施した雷撃は、ユニット記載の対艦攻撃値から2を引いた値で実施する
・水平爆撃は目標の艦艇ユニットに対して6へクスの直進をして同じへクスに到達する必要がある
・水平爆撃においてどの方位から実施しても対艦攻撃値は同じ
○その他命中率に影響する要素
・なし
●航空母艦
海空戦闘は「戦闘ボード」で実施し、「対艦戦闘用のフェイズ」と呼ぶ区切りを繰り返して戦闘処理手順を進めていく。“対艦戦闘用のフェイズ”は「航空機進入ステージ」「対空射撃ステージ」「投下ステージ」「損害決定ステージ」で構成する。
○戦闘ボードのスケール
・1へクス=800メートル
・1“対艦戦闘用のフェイズ”=規定なし(攻撃に参加した全ての航空機が投弾するか退避するまで繰り返す)
○艦船の移動
・戦術ディスプレイに配置したへクスから艦船ユニットは動かない
・速力を有する艦艇ユニットは対空射撃時において5フェイズごとに回頭できる
・艦艇ユニットはそれぞれ別個に回頭しても配置したへクスからは動かない
○航空機の攻撃における回頭運動の影響
・艦艇ユニットには、船首、船尾、斜め前方、斜め後方の各方位がある
斜め前方方位|斜め後方方位
艦首側方位|←艦艇向き|艦尾側方位
斜め前方方位|斜め後方方位
・急降下爆撃は目標艦艇ユニットと同じへクスに配置。爆撃実施後、戦術マップから取り除く
・雷撃は攻撃実施の移動において直進のみ可能
・水平爆撃は攻撃実施の移動において直進のみ可能
・急降下爆撃の命中率は、艦尾>斜め後方>艦首>斜め前方
・雷撃の命中率は、斜め後方>斜め前方>艦尾>艦首
・水平爆撃の命中率は、艦尾>艦首>斜め後方>斜め前方※ただし、ほぼ同じ程度
※このほかに緩降下爆撃がある
○その他命中率に影響する要素
・目標艦船ユニットの攻撃時点における速度
・攻撃目標艦船の艦種
・攻撃実施時間(薄明薄暮、夜間)
・攻撃実施時気象(スコール、荒天)
・雷撃実施距離
・戦闘時期における搭乗員練度
・攻撃方法(投下高度、降下方法)
●Carrier Battles
海空戦闘は戦術マップで実施し、「Tactical Turn」と呼ぶ区切りを繰り返して戦闘処理手順を進めていく。Tactical Turnは「Impulse」と呼ぶ区切りに分けられる。1つのTactical Turnにおいで12回のImpluseを繰り返す。Impulseは「Ship Movement」「Aircraft movement and light flak resolution」「Heavy Flak resolution」「Air to air combat」「Air to surface combat」で構成する。
○艦船の移動
・戦術ディスプレイに配置した艦船ユニットは(最大)4インパルスごとに最大2へクス移動可能
・速力を有する艦艇ユニットは(最大)4インパルスごとに60度回頭できる
○航空機の攻撃における回頭運動の影響
・艦艇ユニットには、艦首、側方、艦尾の各方位がある
側方方位|側方方位
艦首側方位|←艦艇向き|艦尾側方位
側方方位|側方方位
・急降下爆撃の命中率は、艦尾側=側方>艦首側
・雷撃の命中率は、側方>艦尾側=艦首側
・スキップ爆撃の命中率は、側方>艦尾側=艦首側
○その他命中率に影響する要素
・目標艦船ユニットの攻撃時点における速度(高速か低速か停止)
・攻撃機が対空砲火の目標になっていない
・攻撃機ユニットの練度(ACE級ユニットだと命中率向上)
・雷撃実施距離
・搭乗員練度(連合軍搭乗員は練度が低い)
●格闘級!航空母艦の戦い
海空戦闘は「戦術マップ」で実施し、「ラウンド」と呼ぶ区切りを繰り返して戦闘処理手順を進めていく。1つのラウンドは(初期配置関連を除くと)「艦隊運動カードプロット」「空戦解決」「航空編隊移動」「対空戦闘A」「対艦攻撃実施宣言」「対空戦闘B」「回頭実施」「対艦攻撃延期宣言」「対艦攻撃判定」で構成する。
○戦術マップのスケール
・1へクス=2000メートル
・1ラウンド=2分
○艦船の移動
・戦術ディスプレイに配置した艦船ユニットは4ラウンド当たり1~4回60度回頭可能(※4ラウンド先の機動をプロットする)
○航空機の攻撃における回頭運動の影響
・艦艇ユニットには、船首、船尾、斜め前方、斜め後方の各方位がある
斜め前方方位|斜め後方方位
艦首側方位|←艦艇向き|艦尾側方位
斜め前方方位|斜め後方方位
・急降下爆撃、雷撃、水平爆撃を実施するラウンドは直進のみ
・急降下爆撃の命中率は、艦尾>斜め後方>斜め前方>艦首
・雷撃の命中率は、斜め後方>斜め前方>艦尾>艦首
・水平爆撃の命中率は、艦尾>斜め後方=斜め前方>艦首
○その他命中率に影響する要素
・目標艦船ユニットの攻撃時点における速度(高速か低速か停止)
・攻撃実施時間(太陽の方角)
・攻撃実施時気象(雲の存在、風向)
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以上のように、格闘級!~でも「とりあえず」戦術マップのスケールを数値で規定していました。しかし、実をいうと、この値はデザイン過程において最後まで決めておらず、へクスやラウンドは「物事が進んでいく段階」を区切るための枠という概念でありました(入稿直前の校正段階というルールブック制作における究極の最終段階で「やっぱり数値がないと非難轟轟だろうなー」と気弱になって書き加えたというのが真相)。
このことをよく表しているのが戦術マップで規定している艦艇の配置位置です。日米海軍とも同じ位置に配置するようになっているなど、当時のドクトリンに沿ったものではなく、どちらかというと抽象的に扱っています。
その代わりに、格闘級!~における海空戦では「CAPや対空砲火をかいくぐって接敵する攻撃隊が、回頭して逃れようとする敵空母に対して損害を顧みず肉薄するか、それとも、戦力維持を優先して不利な射点から攻撃するか」というシチュエーションの再現を目的としています。
ウォー“シミュレーション”ゲームとしては精密なスケールを重視するべきなのでしょうが、ここはあえて「プロセス」(それもいくぶんドラマ仕立てな)を重視した海空戦処理としているのが、空母戦ウォーゲームにおける“格闘級!~”の個性、とデザイナーとしては考えている次第であります。
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